Tokyo Metropolitan UniversityThe profile of Kuwada

お薦めの図書等

H. A. Simon著 『新訳 システムの科学』(稲葉元吉、吉原英樹訳)、パーソナルメディア、1999年

 最初に紹介すべき本としては迷いましたが、やはり私自身の思考の原典ともいえる本として、この本をお薦めします。
 
 本書のオリジナルのタイトルは「The Science of the Artificial」であり、「人工物の科学」の可能性について書かれたものです。ここで、人工物は「自然ではないもの」「人間がデザインしたもの」を意味しますが、その射程はきわめて広範囲に及びます。コンピュータ、自動車、建造物、美術などはもちろんですが、人間の行動も自然ではないという意味で人工物ですし、企業、社会、言語、宗教も人工物です。自然現象の「なぜ」を問う「科学」も、その研究対象は自然物ですが、「科学」それ自体は人間の知的活動の産物ですからここでいう人工物です。
 絵画などを見ればわかるように、その作品の出来映えは、それを描く人の能力や技術のほか、心の状態、その時点での環境条件などを反映しています。複数の人が作り出す人工物の場合には、これらのほかに「組織」的な諸要因とそれらをマネジメントする能力・技術が、非常に色濃く反映されるものです。ここでいう組織もまた人工物ですが、特に注意したいのは、特定の時点での複数の人々の行動の体系だけでなく、時間を越えた協働も含まれているということです。私たちの知識や技術は先人たちの生み出した知識の結晶ですから、先人の業績の上に私たちの行動がある以上、私たちは時間を越えて先人たちと協同して現在の人工物をデザインしていると考えることができます。
 このように考えると、私たちは人工物に囲まれた世界に住んでいることが良くわかります。そんな多種多様な人工物を理解するには、どうすれば良いのでしょうか?サイモンはその根源的な視点を、人間の認知能力の限界(合理性の限界)にもとめます。